キュレーター・ステートメント
1970年代のコンセプチュアル・アートやミニマル・アートという、抽象的で極限まで感情を押し殺した表現に対し、激しい感情のままの荒々しい筆致であったり、物語性をもつ具象的な形を描きはじめた作家たちにより、1980年代からアメリカ、イタリア、ドイツをはじめ世界各国で同時多発的に発生したのが、ニューペインティグのムーブメントである。
時を同じくして80年初頭の日本では、イラストレーター・湯村輝彦が掲げたヘタウマという概念が、若い作家に絶大なる影響を与えていた。まさしく日本の新表現主義、ヘタウマニューペインティング時代である。この概念をアーティストではなくイラストレーターが掲げたということが、欧米諸国と日本の大きな違いであろう。そしてその洗礼を受けたのが伊藤桂司、長嶋五郎やヒロ杉山。さらにその影響は、次の世代へと受け継がれていった。
東京は今、空前のアートブームである。オークションでは多くの作品が高値で取引されていく。その多くは漫画的であったり、アニメ的な表現である。
しかしそれらは、80年代のヘタウマという概念の系譜では決してないのである。
日本にはアニメ文化だけではない“ヘタウマ”というとても重要な文化が存在していたのである。本展は、ニューペインティングからヘタウマ、その流れの中から生まれた流れを「NEO PAINTING TOKYO」と名付け、7人の作家で構成してみた。
本展キュレーター ヒロ杉山
展覧会概要
このたびOIL by 美術手帖ギャラリーでは、アーティストのヒロ杉山によるキュレーション展「NEO PAINTING TOKYO」を10月7日(金)より開催いたします。参加アーティストは、伊藤桂司、榎本マリコ、SARUME、中島友太、長嶋五郎、山崎由紀子、ヒロ杉山の7名。世代も手法も異なるアーティストたちによる本展では、ペインティングの現在地を標榜するオルタナティブな表現を「NEO PAINTING TOKYO」と名付け、構成します。
1980年代、世界で同時多発的に誕生したアート・ムーブメント「ニューペインティング」は、鮮烈な色彩と荒々しい筆致による自由な絵画表現として発展しました。日本では同時期に、主にイラストレーターたちのなかから「ヘタウマ」という概念が生まれ、稚拙ながら味のある描写で、湯村輝彦、蛭子能収、根本敬といった表現者が注目を集めました。雑誌や広告といったメディアを通じて彼らが後世に与えた影響は計り知れません。その後継として、湯村に師事したヒロ杉山をはじめとするアートディレクターやグラフィックデザイナーといった職業の表現者たちが台頭。アートの分野にも進出し、彼らによってアートとイラストの境界が乗り越えられていきました。
本展では、80年代のニューペインティングと日本独自のヘタウマの流れを経た、現在の東京における新たなムーブメントの胎動を感じさせる7名の表現から、令和のアートの予兆をあぶり出します。
80年代当時にはヘタウマブームを牽引し、以後も脈々と続く日本独自のサブカルチャーを発信し続けるPARCO。その中にあるOIL by 美術手帖ギャラリーを会場とする本展で、ここから生まれる新時代のアートの夜明けをお見逃しなく。
作品販売について
本展出品作品は、会場とアートのオンラインマーケットプレイス「OIL by 美術⼿帖」にて販売します。
※榎本マリコの作品は、会場・オンラインともに販売いたしません。予めご了承ください。
オンライン販売開始|10月8日(土)16:00〜
販売URL|https://oil.bijutsutecho.com/gallery/733
※オンライン公開は、会場販売開始後となるため、公開時点で売り切れの場合がございます。予めご了承ください。
作品に関するお問い合わせ先(メールのみ)
oil_gallery@ccc.co.jp
展覧会詳細
「NEO PAINTING TOKYO」
キュレーター|ヒロ杉山
出展作家|伊藤桂司、榎本マリコ、SARUME、中島友太、長嶋五郎、山崎由紀子、ヒロ杉山
会場|OIL by 美術手帖ギャラリー
会期|2022年10月7日(金)〜10月31日(月) ※会期中無休
開場時間|11:00〜20:00
入場|無料
主催|OIL by 美術手帖
お問い合わせ| oil_gallery@ccc.co.jp
※OIL by 美術手帖の営業時間は館の営業時間に準じます。状況に応じて変更の可能性がございます。最新の情報は渋谷PARCO公式ウェブサイトをご確認ください。 https://shibuya.parco.jp/
Artist Profile
伊藤桂司、榎本マリコ、SARUME、中島友太、長嶋五郎、山崎由紀子、ヒロ杉山
・ヒロ杉山/Hiro Sugiyama
東京都生まれ。湯村輝彦氏に師事。1989年に谷田一郎氏とともに「近代芸術集団」結成。1997年にクリエイティブユニット「エンライトメント」を結成。2004年より現代美術の世界で国内外の展覧会にて作品を発表する。近年の主な展覧会に、21年個展「PAINT IT BLACK」(WATOWAギャラリー、東京)、22年「Monochrome Colors」(Lurf MUSEUM、東京)、22年「PAINT IT BLACK Ⅱ」(ギャラリーTAGSTA、福岡)ほか。
・伊藤桂司/Keiji Ito
1958年東京都生まれ。グラフィックワーク、アートディレクションを中心に活動。2001年東京ADC賞受賞。テイ・トウワ、木村カエラ、スチャダラパー、GRAPEVINE、THE BAWDIES、PES from RIP SLYME、高野寛、ohana、オレンジペコー、ボニー・ピンクなどの音楽関係や、愛知万博 EXPO2005 世界公式ポスター、コカコーラ・コーポレイトカレンダー、NHKの番組タイトル&セットデザイン、イギリスのクラヴェンデール・キャンペーンヴィジュアル、SoftBank キャンペーン、KEIJI ITO × graniph Collaboration等、活動は多岐に渡る。
・榎本マリコ/Mariko Enomoto
1982年生まれ。東京都在住。日本画家であった曽祖父の影響もあり、幼い頃から自然と絵のある環境で育つ。バンタンデザイン研究所、スタイリスト科卒業後独学で絵を描き始める。イラストレーターとして書籍の装画、演劇のビジュアル、CDジャケットなど様々なジャンルのアートワークを担当していたが、近年ではより作家性を追求し個展やグループ展で、植物や動物などに顔を覆われた人物のポートレートを中心に発表する。主なクライアントワークとして、チョ・ナムジュの小説「82 年生まれ、キム・ジヨン」(筑摩書房)、今村夏子著「むらさきのスカートの女」(朝日新聞出版)、川上未映子の連載小説「黄色い家」(読売新聞)の挿絵などを手がけている。
・SARUME
形ある“モノ”の概念に焦点を当てず、モチーフを抽象的に捉え、古くから受け継ぐ人々に共通する深い意識や、自身が新たに経験した世界から反響した光により映し出されたイメージ、さまざまな意識段階に記録された記憶に意識をフォーカスして描く。2015年より「Here is ZINE Tokyo」にてドローイング作品を発表。17年よりペインティング作品を発表。近年の主な展覧会に20年「WAVE 2020」(3331 Arts Chiyoda、東京)、21年「WAVE TOKYO 2021」(同)、22年「THE SELECTED BY WATOWA GALLERY」(elephant STUDIO、東京)、「WHAT CAFE X WATOWA GALLERY NEW STANCE」(WHAT CAFE、東京)。
・中島友太/Yuta Nakajima
エンライトメント所属のアーティスト、アートディレクター。ネットで拾った画像や、漫画、古本、アニメ、雑誌の切り抜きなどをまとめたフォルダの中から、琴線に触れたオブジェクトをセレクトし、デジタル上でコラージュ。自身のフィルターを通しインプットとアウトプットを繰り返し、ペインティングや再コラージュをしてキャンバスに落としこんでいる。2023年3月に渋谷YUGEN Gallery(東京)で個展を開催予定。
・長嶋五郎/Goro Nagashima
雑誌『POPEYE』の表紙やANA機内誌『翼の王国』、TOYOTAカローラのCMへの参加など、雑誌媒体から広告、アパレル、音楽関連、TV 番組を中心にイラストレーターとして活動。2020年より油彩画でのアーティスト活動を本格的に開始。近年の主な展覧会に、2010 年、個展「PROM HEARTS c/w 10SEC.TILL LOVE」(No.12gallery、東京)、21年グループ展「WAVE TOKYO 2021」(3331 Arts Chiyoda、東京)22年個展「Thick Layer」(YUGEN gallery、東京)。
・山崎由紀子/Yukiko Yamasaki
1988年京都府生まれ。東京都在住。デジタルネイティブとアナログ世代の間に生まれ、あらゆるデジタルガジェットの進化、それに伴う情報取集におけるスピードの変化を体感した世代の作家。SNSやネット上で気になった画像を日々集め、デジタル上でコラージュし、それをペインティングに再編集するという手法で作品を発表している。キャンバスのペインティング作品の他に、CD ジャケットや広告、ファッションブランドとのコラボ、壁画など媒体を多様に展開。
EVENT
Opening Reception
2022年10月7日(金)18:00〜20:00