城蛍 / Hotaru Tachi

ハローグッドバイ

2024.4.26 〜 2024.5.20

このたびOIL by 美術手帖ギャラリーでは城蛍個展「ハローグッドバイ」を開催いたします。

1996年愛知県生まれ、現在は東京を拠点に活動する城蛍は、高校時代に美術の道に進むことを決意し、2019年に上京後、個展やグループ展などで作品を発表してきました。

城の作品は、一風変わったテーマと、油彩、日本画、彫刻の技法を取り入れたアプローチが特徴です。彼女はネガティブな要素や日常のささいな出来事からインスピレーションを受け、それらを独自の視点で描き出します。また、漫画や音楽、文学からも影響を受けており、その作品には冷静な視点を持った繊細な世界観が表現されています。

城は作品制作において、絵画の定義を超えた新たな表現を試みています。例えば、彼女が描く「ポートレート」は、ひとりの人物を描くだけでなく、その人物あるいは対象となる物体の背景や環境を細かく設定し、さらには心情までをも含んだ表現となっています。城が日常のなかで記憶していった出来事や人物の断片から生まれたこれらの作品は、観る者に様々な共感を呼び起こし、同時に、城自身も作品を通じて自己の内面を表現することを試みています。

 

■アーティスト・ステートメント 

前提として、私の作品は第三者の負の感情を含んだ光景を切り取り、絵画に落とし込むことで制作しています。

そしてその制作の中では、作品が完成に近づくにつれ、その光景の持ち主である対象の所有する情報が、作者である私自身の中で次第に肥大化していきます。その内容は、性別、年齢、職業、性格、趣味、家庭環境等を基準とし、対象の一日の生活、その日の体調、食事内容、気象状況にまで及びます。とはいえ、これまでその行為に対して私自身取り立てて気に留めることはありませんでした。

しかしながら、制作をしていく中でその情報の密度に改めて着目してみたときに、外見こそ描かれていないもののまるで顔の一つひとつの皺を丁寧になぞっているかのような、とある人物を対象にした肖像画を描いているかのような錯覚に陥るようになりました。

肖像画は、近年日本において、単に外見を精巧に描写するだけでなく、佇まいや表情、更に内面を含んだ空間全体を表現する作品としてポートレート作品と呼ばれることが増えています。そのため、必ずしも対象となる人物が描かれていなくても構わないのではと考えました。

一方、展示タイトルにあるハローグッドバイとは、ビートルズを始め多くのミュージシャンが曲名あるいは歌詞に使用してきた常套句です。そしてその言葉は特定の意味を持ち合わせていません。声にする人物によって歪に変化をし続ける、いわば当人における言葉にできない感情のようなものであると私は認識しています。

ここではとある対象についてのポートレート作品と、各々が鑑賞者に向けて声にするハローグッドバイが共存しています。

そして多くの人々が行き交うこの街はきっと、数え切れないほどのこんにちはとさようならの言葉で溢れており、様々な出会いと別れが絶えず繰り返されているのではないでしょうか。

城蛍

 

■販売について

展示作品は、会場およびアートのオンラインマーケットプレイス「OIL by 美術⼿帖」にて販売します。

ギャラリー販売期間|2024年4月26日(金)〜5月20日(月)

オンライン販売期間|2024年4月29日(月)16:00〜

URL|https://oil.bijutsutecho.com/

※作品はプレセールスの状況により展覧会会期前に販売を終了させていただくことがあります。

※展示作品のオンライン公開は、会場販売開始後となるため、公開時点で売り切れの場合がございます。予めご了承ください。

 

■展示概要

城蛍「ハローグッドバイ」

会場|OIL by 美術手帖ギャラリー

会期|2024年4月26日(金)〜5月20日(月)※会期中無休

開場時間|11:00〜21:00

入場|無料

主催|OIL by 美術手帖ギャラリー

展覧会詳細|https://oil-gallery.bijutsutecho.com/

お問い合わせ| oil_gallery@ccc.co.jp

※OIL by 美術手帖の営業時間は館の営業時間に準じます。状況に応じて変更の可能性がございます。最新の情報は渋谷PARCO公式ウェブサイトをご確認ください。

https://shibuya.parco.jp/

 

〈オープニングレセプション〉

4月26日(金)19:00〜21:00

会場|OIL by 美術手帖ギャラリー

当日は、作家も在廊予定です。予約不要・入場無料。

 


ARTIST INTERVIEW|城蛍
城蛍の新作個展「ハローグッドバイ」。本展開催にあたって、作家のルーツや制作背景について聞いた。

 

風景画が好きだった幼少期

 

──城さんが絵を描き始めたきっかけはなんですか?
子供の頃から風景画を描くのが好きでした。市や動物園の写生大会によく参加していて、地元に菖蒲園があり季節ごとに写生大会があったのですが、そこで良い賞をいただいたりしていました。
いわゆるクラスのなかでちょっと絵がうまい人みたいなポジションで、成績も良くも悪くもなく、どちらかというと田舎に住んでいて、将来的に良い大学に入りたいという気持ちもなくて……。中学3年になって高校を選ぶタイミングで、好きだった美術を続けて基礎から学んでみるか、商業系の高校に行って就職するかという2つの選択肢に絞ったんです。それで運良く地元の愛知県にある美術系の高校に受かり、得意なことをもうちょっと得意にしてみようかなと勉強し始めました。

 

──高校の美術科の授業ではどういったことを学んだのでしょうか?
私がいた頃は、石膏デッサンや静物デッサン、油彩画で静物モチーフを描いたり、モデルさんを描いたりと基礎の基礎をやっていました。高校卒業後に美大進学のために美術予備校に入ったら、ただ絵がうまい人になってしまって。それでけっこう苦労しましたね。

 

──美術に限らず、影響を受けたカルチャーはありますか?
音楽は好きですね。ほぼ日本の音楽しか聴かないのですが、それがなぜかと言うと、ビートルズに「Maxwell’s Silver Hammer」という曲があって、ポップでリズミカルな感じの曲なんですが、歌詞がめっちゃグロいんですよ。マックスウェルという男の子が人を殴り殺していくっていう歌詞。私自身、言葉が持つ意味を重要視するタイプなので、それだけギャップのある歌詞を、英語で理解できないまま聴くことが難しくて。
だから日本語の音楽ばかり聴いています。90年代の少し古いものから最近のものまで。日本のロックを中心に、ポップミュージック、たまに歌謡曲。ボカロにハマっていた時期もあります。基本的にそれぞれの年代とジャンルをかいつまんでいるような感じです。

 

──音楽からインスピレーションを受けて作品に活かすこともありますか?
People In The Boxというバンドがいるんですが、歌詞がすごく文学的なんです。あとはくるり、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)など、そういう音楽でもあり文学でもあるようなバンドの歌詞は、作品タイトルなど自分が言葉を選ぶときのきっかけになってますね。
あと私は昔から作るのが遅くて、予備校の先生から「自分に合う音楽を聴きながらやると手が動きやすいかもしれないよ」と教えてもらって、それからは音楽を脳内で流して手を動かすきっかけにしていましたね。

 

──文学的なものに惹かれるということでしたが、文学そのものにも影響を受けていますか?
活字が苦手なのであまり本は読まないのですが、最近速読を身に着けたので少しずつ読むようになりました。漫画では、何人か好きな漫画家がいるのですが特に宮崎夏次系の短編集『僕は問題ありません』が好きです。短編だと1話のなかの時間が短く、そこで語られてることが少ないから飽きないし、前後を自分で想像できる。それに宮崎夏次系が描く漫画の主人公って人とちょっとずれた変な人が多いんですが、それを肯定している。その世界観がめちゃくちゃ好きですね。

 

上京と初個展

 

──城さんが本格的にアーティストを目指すようになった契機はなんでしたか?
予備校に入ってから先生と話す時間が増えて価値観が変わって、美術の良さがわかって好きになって、それでより続けたいなという思いが強くなっていきました。それまでは、なぜこれが良いかとか、絵画とは何かとか、鑑賞方法をきちんとわかっていなかったんですね。
ちょっとかっこつけたことを言うと、高校を卒業してから気分が沈んでいたんですが、美術に限らず映画や音楽など芸術全般の存在に救われたことが多くて、それに対する恩返しをしたいというか、自分がちゃんとやりたいという気持ちがありました。

 

──その後上京したのですね。美大には進まなかったそうですが、上京のきっかけはなんだったのでしょうか?
上京したのは2019年、23才頃ですね。結局3回くらい受験はしたんです。予備校の模試では1位ばかりだったのですが、本番は時間が足りず一次試験で落ちて、本当に向いてないなと気づいて受験をやめました。
そのタイミングで、予備校に教えに来ていた藝大の方に東京のアトリエに誘ってもらい上京しました。作家活動するなら愛知県でやるより東京のほうがいいからって。恩人ですね。

 

──初個展から現在まで、どういったペースで発表していますか?
2020年の春に初個展をやりました。キュレーターの方がオープンスタジオで作品を見てくださり、ギャラリーでの展示に誘っていただきました。
その年から、個展は年2回、グループ展も年に3、4回くらい参加しています。2021年の個展(「デフォルマシオンの庭」、長亭GALLERY)で一度やりきってアウトプットしきったので、そこからは展示回数を減らして最近復活しました。わーっと展示が続いて落ちついて、今はいい感じですね(笑)。4年くらい経って、ちょっとずつ名前を知ってくれる人も増えたので、いい感じのリズムでやっていきたいです。

 

ネガティブなものを肯定したい

 

──彫刻のような立体と平面作品を組み合わせるという城さんの作品スタイルは初個展の作品にも表れていますが、どのような理由があるのでしょう?
高校受験の時期から大学受験の予備校時代まで、ずっとキャンバスに絵を描くということをやっていたので、受験から解放されて何をやってもいいとなったときに、自分の作品を自分で額装してみたいと思って額を作り始めたんです。で、四角いキャンバス以外のはみ出した空間にものを付け足すという感覚の面白さに気づいて、さらにそれを変形させていくというのがすごくしっくりきた。
それと、キャンバスに絵を描いていた時期から、市販のキャンバスの横に打ってある釘が気になっていました。絵って平面だけどものだから。そこからいろいろやり始めています。

 

──それは受験のなかで決まったキャンバスに描くというストレスもあったのでしょうか?
そういった理由もありますが、最初は絵のなかの人の思い出や記憶を額縁に入れるような意識で作りました。思い出の写真って額に入れて飾りますよね。そういう記憶を保存するという感覚で、物語自体の記憶を保存していきたいと思いました。
制作では、先に絵を描いて、それからそれ以外の木の部分を作っていきます。木の部分も私にとっては絵を描いているときと同じ感覚で、たまたま絵の外にあるものを作っている。
だから私のなかでは今のところすべて絵画であって。額と呼んでるけれど絵の一部なので呼び方をなんと言うかいつも困ります。

 

──城さんの制作のテーマやコンセプトについて、あらためて教えてください。
負を浄化するということですね。それこそ、さきほど話に出た宮崎夏次系の「ネガティブな人間たちを集めて、それがさも当然かのように存在している世界観」ということを私も表現したい。嫌いなものとか気持ち悪さとか孤独な感じとか、ネガティブなものっていっぱいあると思うのですが、それを作品にすることによって肯定したいんです。
以前友達から私の作品について「全体的に狂気を感じるのにそれが当たり前のように存在しているせいでこっちが間違っている気持ちになる」って言われたことがあり、それだ!と思いました。
もともと超ネガティブな性格で、外を歩くのも怖いという時期もあって、それがたぶん常に根底にあるのかなって。本当はそういう時期の自分を救いたいという気持ちがあるのかなって思います。これという大きいトラウマがあるわけではないんですが、小さいことの積み重ねですね。

 

──人よりも敏感な感情を作品によって具現化したいということなのでしょうか。
その元の気持ちというのも、私自身の気持ちであることは少ないです。本当の本当は自分かもしれないけど、自分じゃないってことにして収めようとしてるのかもしれないですけど……。
でも制作では自分と作品を切り離したい気持ちがあって、基本的に自分とは別の虫とかに置き換えて描いています。

 

──今回は新作を展示されますが、展示のテーマがあれば教えてください。
ポートレート作品が好きなんですが、自分がポートレートを描いてないのになんでと聞かれ考えたときに、私もある意味でひとりの人やひとつのものの肖像を描いてる感覚に近いなと思いました。
たとえば足だけを描いた絵があるんですが、その足の人がどこの国の人で年齢はどのくらいで、どういう生活をしていてどのくらいお金もっててとかまで考えてる。それってポートレートって言えるのかなって。全部そうですね。人物であればあるほど。

 

──アトリエの壁にはたくさんのスナップ写真が貼られていますが、絵を描き始めるときはイメージソースを組み合わせるのですか?
最初に「手」とか中心になるモチーフがあるんです。そのモチーフは、自分が単純に惹かれるもので、老人の手、爪の赤い手、タクシーなど一癖あるなにかを含んでるもの。そこへ言葉とか写真がいっぱい集まってきて、それぞれをつまんで、関連付けながら進行していくという感じですね。
言葉や写真は、私自身が魅力を感じたものを集めています。言葉であれば、音の響き、単語の組み合わせや言い回し方、感情の言語化においてなんとなくしっくりきたもの、写真においては変な形の雲や木、陰影の形が面白いもの、なんでそうなった? と思わせる光景など、日常的だけど日常から外れている風景を中心に集めています。ある種の私のコレクションみたいなものです。
モチーフはここがこうであるとか、すべてに理由がないとだめで、人物が着てる服のくたびれ具合とか色とか、全部設定と理由をつけています。だから描き始めるまでが長いんですよね。もうちょっと考えなくてもいいかなと思うくらい。それが最近額縁っぽい作品を作っていない理由かもしれないですね。額縁ってシンプルに言うと装飾なので、意味としては薄いから。それ以上に意味のあるものを作りたいという気持ちがあります。もしキャンバスとして自立しているものがあったとしたら、その近くに何か別のものがあったりします。
だから私の場合は、画面が埋まれば完成というような制限がなく終わりがなくて、それがたまに嫌になっちゃいます(笑)。

 

(2024年3月 アトリエにて収録)

Artist Profile

城蛍 / Hotaru Tachi

1996 愛知県生まれ
2019 東京都内にてアーティスト活動開始

<主な展示歴>
個展
2020 「淡く目映く」Gallery Camellia / 東京
2020 「あじさいと沐浴」MAKII MASARU FINE ARTS / 東京
2021 「海に食べられる」MAKII MASARU FINE ARTS / 東京
2021 「デフォルマシオンの庭」長亭ギャラリー / 東京
2023 「食卓にて孕む」biscuit gallery karuizawa / 長野

グループ展
2019 「シブヤスタイルvol.13」西武渋谷 / 東京
2020 「FACE展2020」損保ジャパン日本興亜美術館 / 東京
2020 「絵画の河岸」TRiCERA MUSEUM / 東京
2020 「シブヤスタイルvol.14」西武渋谷 / 東京
2020 「collectors' collective vol.3」MEDEL GALLERY SHU / 東京
2021 「今年初めに見せたい絵」Gallery TOWED / 東京
2021 「若手の抽象絵画」長亭ギャラリー / 東京
2021 「SLANGS」WHAT CAFE / 東京
2021 「GINZA COLLECTOR’S CLUB」銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM / 東京
2021 「"Ampersand"旧图像世的挽歌」東京画廊+BTAP / 北京
2022 「Lovely」OIL by 美術手帖ギャラリー / 東京
2022 「grid」biscuit gallery / 東京
2022 「ART TAICHUNG」333GALLERY / 台湾

EVENT

〈オープニングレセプション〉

4月26日(金)19:00〜21:00

会場|OIL by 美術手帖ギャラリー

当日は、作家も在廊予定です。予約不要・入場無料。