渡邉太地

Beyond clouds

2023.7.21 〜 2023.7.31

OIL by 美術⼿帖ギャラリーでは、渡邉太地の個展「Beyond Clouds」展を開催いたします 。

渡邉太地(わたなべたいち)は1997年東京都⽣まれ。東京藝術⼤学⼤学院美術研究科修⼠課程に在籍し、展覧会での作品発表のほか、アパレルブランドへのデザインワークの提供など精⼒的に活動を重ねています。本展の主題「Beyond clouds(雲を超えた世界)」では、渡邉の近年の研究テーマでもある「可動型の窓」の新たな表現の追求を⽬指します。

渡邉の⾔う「可動型の窓」とは、「どこでもドア」のようにどこへでも想像を及ぼすことのできるものとしての油彩画であり、⼼情を映し出す存在です。「窓」は、部屋の中に外の眺めを取り⼊れ、広い世界とのつながりを予感させる存在として、しばしば美術作品の題材とされてきました。渡邉の作品では、外の眺めを映すという窓の役割を保ちながら、キャンバス布の状態に空を描ききったあと、キャンバス布を⽊枠に固定することで、絵画でありつつも、キャンバスが空間そのものを捕らえる物質となります。

渡邉は、1枚のキャンバスのなかで制作過程における空間と時間、そして⾊彩の追求によってその平⾯性があえて強調された、様々な⾊の「雲を超えた世界」の⾵景を閉じ込め、平⾯作品を超越した絵画表現を探求します。渡邉の作品が静かに放つ、絵画の概念を解きほぐし既存の表現を打ち破ろうとするエネルギーは、私たちに新たな視点を与えてくれることでしょう。ぜひご⾼覧ください。

 


■ARTIST INTERVIEW|渡邉太地

本展開催にあたって、新作シリーズの背景や、自身の制作への思いについて渡邉太地に聞く。

 

キャンバスが空間を捕らえる

 

──展覧会タイトルを「Beyond clouds」と名付けた意図を教えてください。

 

渡邉太地(以下渡邉) 「Beyond clouds」は、「雲を超えた世界」のことです。雲を超えた先の宇宙空間、別の惑星、実在しない創造の世界、天国、またはどこか見覚えのある景色など様々な空間になり得ることからこのタイトルにしました。

 

──「窓」「空」などのモチーフや、制作の動機、作品コンセプトについて教えてください。

 

渡邉 「窓」を研究テーマとし制作をしています。油画作品を可動型の窓と呼んでいて、実際の窓と同じように空間を創り出し、特定の空間を映し出すのではなく「どこでも窓」のような作品を追求しています。

窓に着目したのは、油画作品の前に主な素材として扱っていたシルクスクリーンで“multi stripes”という作品を制作したことがきっかけです。それから形というものを探求して、より深い領域に到達したいと考え始めました。町を歩いていた時にふと建物の窓が目に入り、これが僕が求めていた形だと直感的に感じ、以降は窓をテーマに作品を制作するようになっていきました。

窓は外の空間を所有するための役割を持っていると考えています。例えば富士山が見える場所に家を建てたら、富士山が見える方角に窓を作るかと思います。それは家の中から富士山を見るために窓を作る、つまりはその空間を所有するためだと考えています。そのことから空、主に雲の上の世界は地上に住む我々にとって非日常的な空間であり、その非日常空間を映し出す窓を描くようになりました。

 

──作品制作の工程を教えてください。どこから描き始めるか、また終わり方はどのように決めていますか?

 

渡邉 まず木枠に張られる前のキャンバス布を壁に固定し、窓に映る空間を最初に描きます。凹凸がなく、我々の視界と同じフラットな状態から描き始めるためです。映し出す空間を描き終えた後に、キャンバス布を木枠に固定します。タックスによって画面が木枠に固定されることで「空間を捕らえる」と考え、その後に窓にあたる画面を描いています。サイズは頭の中にある描きたい空間によって大まかなサイズを決めており、下書きなどはせずに描き始め、終わりと感じるまで描き続けています。

 

──今回、これまで発表してこられた作品と大きく異なる点として、支持体としてのキャンバスの変形がありますが、支持体の形は渡邉さんの作品にとってどのような効果をもたらしているのでしょうか?

 

渡邉 先述した空間を捕らえるという表現、これを表現するためにこのような張り方に至りました。また、キャンバスを外側に折ることによって窓が描かれているレイヤーとはみ出しているレイヤーと二層のレイヤーが生まれます。この二層が僕にとって、窓の手前と奥という空間を創り出すと考えています。

 

──制作をするうえでのインスピレーション源はなんですか?

 

渡邉 目に入るすべてのもの、友達との時間、ひとりで映画やドラマを見る時などの日常生活で得られるものが僕のインスピレーション源です。

 

──自身の作品を、鑑賞者にはどのようにとらえてほしいと思いますか?

 

渡邉 自由にとらえてほしいと思っています。ゲルハルト・リヒターがインタビューで、「タイトルは鑑賞者にイメージを与える方法」だと述べていたのがとても印象に残っています。僕が今までの油画作品をすべて無題としてきたのは、イメージを与えずにとらえてほしいからです。ただ、まだ納得するタイトルが出てこないというのもありますが(笑)。

 

──今回の展示のための制作中の印象的なできごとや、心境の変化などがあれば教えてください。

 

渡邉 可動型の窓と呼んでいる油画作品に描かれている縦のラインを簡単に言えば「窓の桟」ですが、その正体が何かわかったような気がします。

 

──東京藝術大学大学院に進学した経緯を教えてください。

 

渡邉 僕の先輩で藝大に通っていた方がいて、その方に絵を見せて感想を聞きたいと思い咄嗟に連絡をしました。その後、取手キャンパスに遊びに行った際に現在僕が在籍する研究室の小林正人教授と話す機会をいただきました。その時に小林さんの著書『この星の絵の具』の上巻と中巻を頂き、読んだことをきっかけにこの研究室に入りたいと思い受験を決意しました。

 

──影響を受けたアーティストや、意識している作品はありますか?

 

渡邉 1人挙げるとするならば、デイヴィッド・ホックニーです。ペインターだった彼がiPadでも作品を描くなど80歳を超えても、新しいことへ挑戦し続ける生き様が好きです。昨年LAに行った際、たまたま彼のデジタルペイントの作品による個展を観たのですが、とても感動しました。僕も自分が表現したいことに純粋に向き合って挑戦を続けられる作家になりたいと思ってます。

 

──グラフィックデザインを用いた表現から、油絵へと変化していきました。技法の変化によって自身にはどのような影響がありましたか?

 

渡邉 油絵を描き始めた当初は、グラフィックと油絵が自分の中で離れた存在だと思っていました。しかし、描けば描くほど表現という本質は変わらず共通点が多くあることに気付きました。今でもクライアントワークでグラフィックを制作したりもしますが、ペインティングで得たものを活かせていると思います。

 

──今後の目標や夢を教えてください。

 

渡邉 絵を描き続けられるように頑張りたいです。

 

(2023年7月3日メールにてインタビュー)

 

 


 

■展示概要

渡邉太地「Beyond clouds」

会場|OIL by 美術⼿帖ギャラリー

会期|2023年7⽉21⽇(⾦)〜31⽇(⽉)※会期中無休

開場時間|11:00〜21:00

オープニングレセプション|7⽉21⽇(⾦)19:00〜21:00

⼊場|無料

主催|OIL by 美術⼿帖

お問い合わせ|oil_gallery@ccc.co.jp

※OIL by 美術⼿帖の営業時間は館の営業時間に準じます。状況に応じて変更の可能性がございます。最新の情報は渋⾕PARCO公式ウェブサイトをご確認ください。 https://shibuya.parco.jp/

 

■作品販売について

本展出品作品は、会場および、アートのオンラインマーケットプレイス「OIL by 美術⼿帖」にて販売します。

オンライン販売開始|2023年7⽉22⽇(⼟)16:00〜

販売URL|https://oil.bijutsutecho.com/gallery/733

※オンライン公開は、会場販売開始後となるため、公開時点で売り切れの場合がございます。予めご了承ください。

Artist Profile

渡邉太地

1997年東京都⽣まれ。東京藝術⼤学⼤学院美術研究科修⼠課程油画第⼀研究室在籍。シルクスクリーンを⽤いた版画作品や油画作品を制作。現在は「可動型の窓」を研究テーマとした油画作品を中⼼に制作を⾏う。我々の⽣活と密接な関係である窓を再解釈し、実際の窓と同じように空間を創り、その空間への⼊り⼝となる絵画表現を研究している。

EVENT

オープニングレセプション|2023年7月21日(金)19:00〜21:00

*予約不要・入場無料